柞の森の樹木たち 番外編
ドングリ

柞の森の樹木たちではその2・3とコナラ属のコナラ亜属、アカガシ亜属を取り上げました。①クヌギのドングリ.jpg①クヌギのドングリ
いずれもドングリを成らせる樹です。ここで一服、ドングリの話題を書いてみました。

ドングリはブナ科の堅果の総称で団栗と書き「丸い栗」という意味です。
○コナラ、ミズナラ、クヌギ、カシワ、シラカシ、アカガシなどのコナラ属(コナラ亜属、アカガシ亜属)
○マテバシイ属
○スダジイ、ツブラジイのシイ属
○クリ属
○ブナ属の日本にあるものでは22種の果実を言います。
② ドングリの試食 (つづく).jpg②ドングリの試食 左からアラカシ、ウバメガシ、マテバシイ、スダジイ、ツバラジイ
狭義にはクヌギの果実をいい九州出身の私はドングリといえばクヌギの実を第一番にイメージします。なぜなら、ドングリ眼(まなこ)というようにドングリはまん丸で大きいというイメージが強いからです。童謡の「どんぐりころころ」でもドングリは転がってお池に「どんぶりこ」になっています。

ドングリは、デンプンが豊富で動物には大切な食料ですが人間にとっても縄文時代や飢饉のときの大事な食料源でした。2010年は山のミズナラなどのドングリが不作だったということでクマが里地に出没する話題が頻繁にありました。その極め付けが次の話題です。

えさ不足のクマを救おうと、某自然保護団体が公園などのドングリを集めてヘリコプターで山に撒いたというニュースがテレビで放送されて話題になっていました。これに対しては様々な意見があります。
③ドングリの試食 シラカシ.jpg③ドングリの試食 シラカシ
・そもそもエサが少ないのも自然現象、えさを供給することがクマにとって本当に良いことなのか?
・都市部の公園のドングリを奥山に撒くことは遺伝子のかく乱になるのではないか?
・ドングリには虫がつきやすくその影響が懸念される
・そもそもクマは樹上の実を好んで食べるので撒いたドングリはネズミのえさになり鼠が増えるのでは?

など考えさせられる問題ですね。みなさんはどう思いますか?

ドングリの背(味)比べ

④スダジイのドングリ(落下寸前).jpg④スダジイのドングリ    (落下寸前)「ドングリの背比べ」とは大きさがどれもほとんど同じで、甲乙の判定が出来ないので比べる意味がないという意味です。実際のドングリでは同じ種類ならそのとおりですがドングリにもいろいろあって種類が違うとかなり違います。味もその一つです。今回できる限りドングリを集めてみましたので背比べならぬ味比べをしてみました。

クヌギは子供の頃食べてみてとてもうまいものでなかったことを知っています。ブナは「ソバグリ」といわれるくらいで仕事柄よく食べました。その味の良さは抜群。コナラやミズナラはタンニンが多く、スグに吐き出したいぐらい渋い。これらの経験に加えて今回実食して比べてみました。

今回はイチイガシ、シラカシ、アラカシ、ウバメガシ、マテバシイ、ツブラジイ、スダジイのドングリを手に入れることが出来ました。(写真②③)

これまでの経験を含めた味比べの結果、おいしい順番に、⑤苞に包まれたスダジイのドングリ.jpg⑤苞に包まれたスダジイのドングリ
①ブナ ②ツブラジイ③スダジイ ④マテバシイ ⑤ウバメガシ
⑥イチイガシ ⑦シラカシ  ⑧アラカシ ⑨コナラ ⑨ミズナラ ⑩クヌギ となりました。

○ツブラジイ・スダジイ(写真④⑤)
ブナの次がやはりシイ類でした。ツブラジイは子供の頃よく山に拾いに行ってポケットに入れていつもボリボリ食べていました。晩秋の貴重なおやつで、炒ると特にうまくなります。この秋、スダジイを大量に拾い、飲み会の時ビールのつまみに出してみたらピーナツよりおいしいと評判が良かった。ツブラジイとスダジイの味の差はドングリの背比べです。

○マテバシイ(写真⑥)
マテバシイはドングリが大きくて食べがいがあります。⑥マテバシイのドングリ(実が大きく、殻斗が鱗片).jpg⑥マテバシイのドングリ(実が大きく、殻斗が鱗片)今回は生で食べてみたが格別まずくはない程度、炒ったらもっと美味しくなるでしょう。このマテバシイ、マテバシイ属だからカシ類ではないが葉や木肌やどんぐりの形はカシに似ている。しかし、味はシイに近い。なので「待てばシイ」なんだろうか?と勘繰ったが専門家に聞くと虫媒花なのでカシより進化した形態であるらしい(後述)。
マテバシイは木になっているうちがおいしい。地面に落ちてしばらくすると実が発酵したような味になる。ひょっとしたら酒が造れるかも!!

○ウバメガシ・イチイガシ・シラカシ・アラカシ(写真⑦⑧⑨⑩⑪)
意外とおいしかったのはウバメガシでした。イチイガシとともに生でもいける。シラカシやアラカシは生食では渋みが強くたくさんは食べられないが焚き火で焼いて食べるとホクホクしたおいしさになります。
⑦ウバメガシ.jpg⑦ウバメガシ
○アカガシのドングリ(写真⑬)
アカガシは1月になって入手したため試食することができませんでしたが樹形の様子やドングリの大きさからあまりおいしくないようです。写真⑫は前回のカシ類に間に合わなかったアカガシの樹皮で赤っぽく大きくなると皮が斑に剥げ貫禄が出てきます。

虫も大好きなドングリ

⑧イチイガシのドングリ.jpg⑧イチイガシのドングリドングリにはよく虫がつく、少年時代はクヌギのドングリを集めて出てくるドングリ虫で川魚を釣った。この虫は白いウジ虫だがきれいでぷりぷりしていてつぶれにくく餌に最適でヤマメが良く食い付いた。なんという虫だかわからないでいたがゾウムシの仲間らしくドングリが小さく青く柔らかいうちに孔をあけて産卵するらしい。

ドングリを食べる会?

⑨イチイガシ.jpg⑨イチイガシドングリは縄文人には貴重な食料でした。時にはドングリを食べて縄文人のセンサーをよみがえらせるのもいいのでは!!

ドングリの渋はタンニンとサポニンである。これを抜くには「水にさらす方法」と「木灰を使って煮る」方法がある。炭焼きの時に出る灰は貴重品、来秋のためにとっておこう。どんぐりはデンプン質が豊富だから葛餅と同じものが出来ることは間違いないと思う。

長野のある地域ではドングリコーヒーを飲ませてくれるところがあるらしい。ぼんぼり野外カフェーのマスター、一度試してみませんか?でんぷん質豊富なドングリのことソバもできるはず、団栗ごはん、パンやクッキーもいけそうです。

ドングリ達の違い

○発芽の違い⑩シラカシのドングリ.jpg⑩シラカシのドングリ
ドングリは乾燥に弱く、落下して乾燥すると発芽しなくなります。落ち葉が被たり、土の中に入り適当な水分を保つことが必要です。リスやネズミが貯食してその残りが発芽するのは乾燥から逃れることになります。ドングリは彼らを利用して子孫を残しているのでしょうか?

熟したドングリの内側には子葉が詰まっていてドンガリ部分に幼根が既にある。落葉性のミズナラ、コナラ、クヌギは落下後、冬の間までにトンガリ部分から幼根を出して発芽し、幹や葉になる地上部分は翌春に発芽して成長する。落下したらまず根を出して土壌から水分を取り乾燥しないようにしているようだ。そして春になって幹や葉となる芽を出す二段構えとなっている。

一方、常緑性のカシ類は翌春になって根と芽を出す。⑪アラカシのドングリ.jpg⑪アラカシのドングリスダジイは当年発芽と翌年発芽の両方がある。ドングリから苗木を作るにはドングリを乾燥させないようにするのが大切。ドングリを拾ったら直ぐに播く方法が簡単で採り播きといわれている。そのほか濡れた新聞紙などに包みビニール袋に入れて土中に春まで埋めておく方法や冷蔵庫に入れておく方法があるがいずれも乾燥させないようして春に発芽している幼根のまま播けばよい。

○1年ドングリ組と2年ドングリ組の違い
ドングリは花が咲いたその年の秋に成熟するものと翌年の秋に成熟するものに分かれます。
1年成・・・コナラ、ミズナラ(コナラ亜属)、イチイガシ、シラカシ、アラカシ(アカガシ亜属)、
クリ(クリ属)、ブナ(ブナ属)
2年成・・・クヌギ、アベマキ、ウバメガシ(コナラ亜属)、アカガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ(アカガシ亜属)、マテバシイ(マテバシイ属)、スダジイ、ツブラジイ(シイ属)
⑫アカガシの樹肌.jpg⑫アカガシの樹肌
ドングリにも豊作年と不作年はあるがシラカシやコナラは毎年実をつける。一方、今年たくさん実をつけたマテバシイ、ウバメガシ、ツブラジイの木は来年のドングリは少ない。

○風を使うか虫を使うか
花から実になるには受粉しなければならないが受粉には風を使ったり(風媒花)虫を使ったり(虫媒花)と樹木にはそれぞれ特性があり様々な知恵を働かせている。
ドングリの仲間を次のように分けられる。

風媒花・・・ミズナラ、クヌギ、ウバメガシなどのコナラ亜属、アカガシ、シラカシ、アラカシなどのアカガシ亜属、ブナ属⑬アカガシのドングリ.jpg⑬アカガシのドングリ
虫媒花・・・マテバシイ属、シイ属、クリ属
虫媒花は虫を引き寄せるため花が強烈なにおいを出す。クリやシイの花が独特なにおいを持つのはそのためです。

ブナは例外ですがドングリは虫媒花の方がおいしいようです。マテバシイの実がおいしいのはそれなりの理由がありました。「待てばシイ」でなくカシより進化したシイそのものでした。

○帽子に個性
ドングリには殻斗(帽子、お椀)があり、その殻斗の形や模様にそれぞれ違いがあります。

・トゲやイガがある・・・クリ、クヌギ、カシワなど
・殻斗が堅果全体を包んでいる・・・スダジイ、ツブラジイ、ブナなど
・殻斗に横縞がある・・・アラカシ、シラカシなど
・横縞があってビロード状の毛がある・・・イチイガシ、アカガシなど
・うろこ状になっている・・・コナラ、ミズナラ、ウバメガシ、マテバシイなど

トゲやイガで守られているものや全体を包まれているドングリがおいしいのは熟する前に食べられないように守っているのか?また、ウバメガシは常緑のカシの名前が付いていますが殻斗にリングがなく鱗片状になっておりコナラ亜属であってアカガシ亜属ではないことがうなずけます。殻斗の違いはなかなか説明しにくいのですが写真で確認してみてください。

このようにドングリは同じように見えてもそれぞれ違いがあり個性を持っているようです。このほか動物達との関係や育て方、ドングリを使った遊びなどまだまだ興味が尽きません。

今年の秋を楽しみに!?柞の森の樹木たちからは少し外れました。以上番外編でした。

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柞の森の樹木たち その3
アラカシ(ブナ科コナラ属カシ類 常緑高木)  別名 ナラバガシ、クロガシ 漢字表記=粗樫                                     シラカシ(ブナ科コナラ属カシ類 常緑高木) 別名 クロカシ、ホソバガシ 漢字表記=白樫、白橿


今回は前回のコナラと同じブナ科コナラ属のカシ類です。同じ科、属で、いわゆるドングリの実を成らせる仲間ですが亜属で分けると落葉広葉樹のコナラはコナラ亜属、常緑広葉樹のアラカシなどのカシ(樫)類はアカガシ亜属に分類されます。

写真① ははその森 遠景.jpg①ははその森 遠景写真② 林内 落葉広葉樹の下層にカシ類が繁茂.jpg②林内 落葉広葉樹の下層にカシ類が繁茂写真③ 落葉広葉樹とカシ類の樹冠.jpg③落葉広葉樹とカシ類の樹冠さて、前回、コナラに代わって虎視眈々と次の世代を狙う「カシ類」と紹介しています。

写真①は柞の森を畑のほうから見たものでコナラやケヤキなどが上層を占めていますが林の中に入ると写真②③のとおり、中層から下層にはカシ類がたくさん生えていて一部の木は既に優先上木となっているものもあります。カシ類は極相になる前の遷移中期に林内を優占する樹です。

コナラの林を乗っ取ろうとするヤクザな木との印象がありますが「樫」の名前は堅木(カタギ)が由来ですので真っ当な木です!?柞の森にあるカシ類は「アラカシ」と「シラカシ」です。その比率は6:4ぐらいでしょうか。アカガシがあってもおかしくないので探してみましたが見つかりませんでした(アカガシの項参考)。

アラカシ

写真④⑤⑥ は柞の森のアラカシです。
写真⑤ アラカシの葉(表).jpg⑤アラカシの葉(表)写真④ アラカシの幹.jpg④アラカシの幹
アラカシは関東以南の本州、四国、九州の丘陵地(低標高)に分布し、樹高20m程度、直径50cmぐらいにはなりますが一般的にはそう大きくはならないようです。乾燥に強く、土壌の浅い岩石地などのやせ地でもよく生育します。耐陰性もあり、成長も早いのでカシ類の中にあっても優先しやすい木です。

柞の森は生育条件にあっているらしく麓から尾根まであって、特に岩石地や尾根筋にアラカシが目立ちます。幹はすらっとしてスマート、暗灰色で小さなぶつぶつがあるザラザラした感じの樹皮(写真④)で枝分れが多く、着葉も多いので、林の中では枝葉が茂り、まるでガキ大将が威張っているように見えます。

写真⑦ 葉の裏を炙るとロウ質の分泌物が溶けて緑色になる.jpg⑦葉の裏を炙るとロウ質の分泌物が溶け緑色になる写真⑥ アラカシの葉(裏)とドングリ.jpg⑥アラカシの葉(裏)とドングリ葉は単葉(典型的な木の葉)で互生、大きな葉が枝先に集中して着き、上半分に粗い鋸歯がある。葉の表はロウ質層が発達しつやつやしていて照葉樹の典型。裏は葉脈がはっきり浮き出ており灰白色、ここをライターであぶるとロウ質の分泌物が溶けて緑色になる(写真⑦)。

材は硬く、丈夫、重く、弾力があり、湿気に強く、割りやすい特徴を持もっているので器具材、船の櫓、車両、建築材、シイタケ原木、薪や木炭など利用幅が広い。

アラカシのドングリは、開花の年の10月から11月に成熟します(当年成熟)。長さは1.5cm程度の褐色、卵をやや丸くしたようで丸みが目立ちます。特徴は殻斗(ドングリの下部のお椀(帽子))が灰緑色で横縞リングがあります。柞の森では木に着いた堅果の撮影が難しいのですが、11月6日に伐倒した木がアラカシでしたのでようやくドングリが撮影できました(写真⑥)。

シラカシ

写真⑧ シラカシ幹(柞の森).jpg⑧シラカシ幹(柞の森)写真⑨ シラカシの葉(柞の森).jpg⑨シラカシの葉(柞の森)写真⑧⑨ は柞の森のシラカシです。写真⑩は柞の森ではドングリを撮影するのが難しいのでつくば市で撮影したものを使いました。

関東ではカシといえばシラカシというほどです。柞の森も気候条件的には本来はこの木が多いはずです。現に周囲の山にはシラカシが目立ちます。高橋さんの家の下の小宮神社の境内にスマートな幹をした大木があって沢山のドングリが落ちていました。また、この付近の都道沿いにはアラカシ、シラカシが繁茂していますので間近で葉っぱやドングリを見ることが出来ます(写真⑪)。

シラカシの耐陰性はアラカシより弱く、湿潤で肥沃なところを好んで生育することから柞の森ではアラカシに負けているようです。カシ類の中では最も寒さに強い樹種でアラカシより高標高地や北のほうによく生育しています。樹高は20m程度、直径は60~80cmぐらいの大木になります。

写真⑪ 盆堀集落小宮神社のシラカシ大木.jpg⑪盆堀集落小宮神社のシラカシ大木写真⑩ シラカシの葉とドングリ(撮影 つくば市).jpg⑩シラカシの葉とドングリ (撮影 つくば市)樹幹は通直、枝から下が高く、樹皮は緑色を帯びた灰黒色で、滑らかな肌をしていて林の中では色白な青年将校のような風格です。材は偏在と心材の区別が明瞭でなく、灰白色ですが他の木からすると「白い」という印象です。この白さからシラカシ(白樫)と呼ばれています。写真⑫は森の中の1本を削って見ました。

強靭で鍬や鎌などの農機具や工具の柄に良く使われ、昔は槍の柄に最適とされていいました。一般的には建築材、楽器材、枕木、カンナ台、舟の櫓、シイタケ原木、薪炭材に使われます。

写真⑫ シラカシ材の色.jpg⑫シラカシ材の色写真⑬ シラカシのドングリ(撮影 つくば市).jpg⑬シラカシのドングリ (撮影 つくば市)
葉は細い卵形(長楕円)で、先が長く鋭く尖り、上部の縁に浅い数個の鋸歯があります。笹を思わせる細く小型の葉がぎっしりと密生しているので涼しげな樹形をしています。表は光沢のある濃緑色、裏は灰緑色で互生(写真⑨⑩)。

堅果は、開花の年の10月ごろ成熟し、やや小ぶりのドングリです。アラカシより、先細長で殻斗は深く、やはり横縞リングがあります。(写真⑫)。

写真⑭ シラカシのドングリ(撮影 つくば市).jpg⑭シラカシのドングリ (撮影 つくば市)シラカシは関東では屋敷の周りに植えられていて立派な植垣となっているのを良く見かけます。これは、防火、防音、防風などに役に立つからですが葉が細く涼しげで、すらっとした樹形が好まれてか最近では街路樹に多く植えられ、その下にたくさんのドングリが落ちているのを見かけます(写真⑭)。


その他のカシ類

カシ類にはアラカシ、シラカシのほかアカガシ、イチイガシ、ウバメガシ、ウラジロガシが一般的ですがこれらは柞の森にはありません。

アカガシ
アカガシ若木の葉(撮影 南房総市).jpgアカガシ若木の葉 (撮影 南房総市)山地、暖帯上部など比較的高標高の肥沃で降水量の多いところに成育し、樹高20m、直径2m前後の大木になります。柞の森は生育条件に合わないようです。

私が勤務した屋久島ではヤクスギに負けない風格で混生していて、新芽の下にヤクシマミドリシジミがたくさんの卵を産み付けていました。

材は強靭で赤っぽいのがアカガシの名の由来となっていて、葉は大きいのでオオバガシともよばれ、鋸歯のない全縁で裏の葉脈がはっきりしているのが特徴です。堅果は開花の翌秋に成熟します。大きな木になると樹皮がうろこ状にはがれる特徴があって美しい肌ではありませんが林の中で荒武者のような風格のある樹形をしています。

写真は千葉の南房総市で見つけた若い木です。葉は全縁なのでマテバシイと間違いやすい形をしていますが堅い感じで葉柄が長いところが違います。

イチイガシ
写真⑮ 観音堂のイチイガシ(撮影 熊本県葦北町).jpg⑮観音堂のイチイガシ (撮影 熊本県葦北町)漢字で書けば「一位樫」ですので神社などに良く植栽されています。先日行った伊勢神宮には沢山ありました。

カシ類の中では材質も一番良いといわれています。西日本に多く、九州では普通にありますが関東ではあまり見かけません。

熊本の私の昔の実家は観音堂の真下にありました、境内には子供なら3人は入れるほどの空洞のあるイチイガシの老大木があって、その中でよく遊んだものです。その隣には集落中どこからでも見ることが出来る樹高40mほどの杉の老大木があって、これの樹頂に旗を立てることができれば子供たちの仲では一目置かれる存在でしたがこれが出来る者は何人もいませんでした。

写真⑯ イチイガシの葉と幹(撮影 熊本県人吉市).jpg⑯イチイガシの葉と幹 (撮影 熊本県人吉市)このイチイガシが秋になると実家の屋根に音を立てて実を落としました。かなり大きな実ですので瓦に当たる音が良く響きました。この音は今でも耳に残っていて唱歌「里の秋」の ♪~お背戸に木の実が落ちる夜は~♪の世界がよみがえります。この木はもうありませんが写真⑮⑯はこの秋、里帰りしたとき撮った隣の集落の観音堂のイチイガシと人吉市の青井阿蘇神社の境内のイチイガシです。

ウバメガシ
写真⑰ ウバメガシのドングリ(撮影 江東区若洲).jpg⑰ウバメガシのドングリ (撮影 江東区若洲)写真⑱ ウバメガシの葉(撮影 江東区若洲).jpg⑱ウバメガシの葉 (撮影 江東区若洲)姥芽(目)樫)の名のとおり芽出しの頃の若葉が茶色の美しい色になります。ご存知、備長炭の材料です。本来は房総半島以西の太平洋岸の暖温帯の海岸近くで乾燥して土壌条件も厳しいところに生育しています。あまり大きくならず多くの枝を出し、刈り込みに強く、条件の悪いところでも育つので庭木や生垣に使われていましたが最近は街路樹や公園で良く見かけます。皆さんも小さな葉の中に小粒で愛らしいドングリを着けた姿を見たことがあると思います(写真⑰)。

材は硬く、これを焼いた白炭・備長炭は硬く、火持ちがよく、灰が少なくて飛ばないのでうなぎの蒲焼に最適な炭です。

葉は樫の仲間で一番小さく、光沢があり、枝先に輪状に着きます(写真⑱)。
ドングリは、カシの仲間でありながらリングがなく鱗片があるところを見るとナラの仲間に近いのでではと考えられています(写真⑰)。写真は江東区の若洲公園で撮ったものです。

「柞の森の樹木たち」は出来る限り現地の写真を使うことを心がけていますがご承知のとおり樹齢が高く、木が大きく葉の写真がうまく撮れないので私が撮った写真を使っています。

今回、各地で原稿作りのための写真を撮影しているときカシ類等のドングリを良く見かけましたので次回は「番外編」としてドングリついて書いてみたいと思います。お楽しみに!

赤胴鈴之助と長島茂雄

赤胴鈴之助 bw.jpg私が少年のころは遊び道具も自分でこしらえました。ラジオドラマ赤胴鈴之助に刺激されてか手作りのシラカシの木刀で枝からぶら下げた薪片を叩いて修行する少年剣士になりきっていました。シラカシは枝も通直で材が白いので木刀の材料に最適でした。仲間と山に入り、大きなシラカシに登り、枝の中から手ごろなものを切り出してきて、縁側に敷いたゴザの上でひなたぼっこをしながら鉈、鋸、小刀を使って形を整え、その後ガラスビンのかけらを使い細かく削って綺麗に仕上げます。唐芋を食べて青バナをすすりながら一日中やっていました。

長嶋茂雄bw.jpg小学校3年生のころ長島茂雄が巨人軍に入団し、大活躍すると子供たちは野球に熱中しました。グランドは刈り取りが終わった田んぼや分教場の校庭、グローブはなく素手、ボールはなぜかソフトボールがあって、既製品のバットもあったが折れると代わりはない。そこで各人がシラカシでmyバットを作っていました。「このバットでホームランを打つぞ!!」と長島茂雄になりきって太い枝を削って自分にあった手ごろな大きさと長さにしていく、今思い出しても楽しいひと時でした。

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柞の森の樹木たち その2 
[コナラ] ブナ科コナラ属 落葉高木 漢字表記=小楢、枹 

前回は、炭焼窯跡付近にあったナンジャロという仮の名前から本名が判明したオニグルミでした。柞の森のオニグルミより大木ではありませんが盆堀川の川沿いで良く見かけますので都道を歩く際には気を付けて見てみましょう。

コナラの樹肌2010_0718_103620-P1010369.jpg①コナラの樹幹さて、今回は主役の登場、別名をハハソ(柞)又はナラと呼ばれるコナラです。なぜハハソと呼ぶのかは後述しますが、まさに、柞の森の主役にふさわしく森の上木層を優先し、写真①のような肌の木を多く見かけます。

ここの森のコナラは樹高も直径も大きく壮齢で大きな木が散在し、細い木が群生する二次林のコナラのイメージとはちょっと違った印象を受けます。なので、柞の森のコナラはその大きさと樹肌から最初はミズナラに同定していました。写真②の葉は林内の光があまり届かない後生枝の葉ですので異形があるのは当然ですが葉柄がない葉もあってミズナラでは?と疑いたくなります。しかし、他の多くの葉は葉柄がちゃんとあります。

コナラの葉(異形)2010_0807_102811-P1010452.jpg②コナラの葉(異形)コナラ(みなかみ藤原)2010_0817_062036-P1010573.jpg③コナラ(みなかみ藤原)ミズナラ(みなかみ藤原)2010_0817_061958-P1010572.jpg④ミズナラ(みなかみ藤原)

写真③と④は群馬県みなかみ町藤原で撮影したコナラ(③)とミズナラ(④)です。
柞の森のコナラは大きすぎてこんな良い被写体は撮れません。

写真で一目瞭然、ミズナラは葉柄がほとんどなく、あっても2~3mmで枝から葉っぱが直接出ているように見えます。コナラは10~12mmと明瞭にあります。これがコナラとミズナラの大きな違いです。樹皮もミズナラは灰褐色で薄鱗片状に重なって剥がれ、コナラの樹皮は淡黒褐色で縦の裂け目があります。

コナラ、ミズナラはコナラ属です。ここで、そのほかの違いを挙げておきます。
コナラは一般的に樹高20~25m、直径は50~70cm、大きいものは100cmになる。ミズナラは20~30mで、直径は80~100cm、大きいものは180cmぐらいになる。つまり、ミズナラはコナラより大きくなり葉や実(ドングリ)も大きいのでオオナラ、あるいは、コナラより水分が多いのでミズナラと呼ばれます。どちらも北海道(コナラは道南部)から九州まで生育するがコナラが丘陵帯~山地帯下部の二次林で優占し、乾燥に強く、ミズナラはそれより高標高の山地帯以上に良く生育している。

次回は虎視眈々と世代交代を狙うカシ類に登場してもらいます。

なぜハハソ(柞)なのか?

柞は「イスノキ」との説もあるが「コナラ」のこと。
コナラは食料や燃料、牛馬飼料、緑肥、染料(黒)などさまざまな用途に利用され、土地を肥やし、水を蓄え、根茎が発達するので山崩れにも強く農業と暮らしを支える有用な樹種である。そのことが森の母になぞらえてハハソと呼ばれるのではないだろうか。

また、ナラ類の葉や材にはタンニンが多く含まれている。最近知ったことであるがコナラ等のナラ類の葉っぱからタンニン酸が供給され、これが鉄イオンと結びついて鉄を供給して海藻類を育て、海を豊かにするという。いわゆるナラ類の生態系サービスである。そう言えばコナラの枝葉の使い方として海苔粗朶として利用されたようで、まさに母なる木にふさわしい。

「コナラ」「ミズナラ」の思い出

コナラを見ると思いだすことがある。
それは私が九州山地の山奥に勤務していた20歳のころ、夏のブヨや蚊にやわ肌?がかぶれて悩んでいる時、寮母さんにコナラの葉を煮詰めてペースト状にしたものを塗ってもらうと痒みもとれてきれいに治った。まさに、今話題の「生物がもたらす医薬品」である。作り方を聞いておけばよかったと後悔している。

コナラの仲間であるミズナラにも思い出がある。
北海道の旭川に勤務していた8年ほど前のことである。旭川を中心とする道北地方はかっては北海道広葉樹の産地であり、優良な広葉樹が多く生産されていた。特にミズナラは欧米へインチ材として明治末期~戦後、輸出されてJapanese oakと呼ばれ高級棺桶材や家具材として高い評価を得ていた。その後、資源は少なくなり品質も落ちたとは言え時折良い材が出てくることもあった。
ウィスキー樽a.jpg
そんな折、サントリーから北海道産のミズナラでウイスキーの樽を作りたいので集荷に協力してほしいとの要請があった。道産ミズナラはかってはウイスキーやワインの樽も作っていたようであり。道産ミズナラで作った樽に仕込んだウイスキーは30年ぐらい経つと一般的なホワイトオークとは違う素晴らしい味に変わるという。30年後の味に託して今から仕込みたいとの夢のある話であった。

しかし、一企業への肩入れはできないので入札のルールの中で地元の業者さんとの連携で集められることになった。どんな味のウイスキーだろうか。楽しみである。ところで今年8月サントリーから「山崎ミズナラ」というウイスキーが限定販売されている。21年物で樽は日本産らしいので以前に仕込んだものだろう。飲んでみたいが一本が2万5千円円で6本売りと聞けば?? 
忘年会に出るとすごい!!

「コナラ」うんちく

りすa.jpgブナ科の堅果(実)をドングリ(団栗)と呼ぶのでブナやクリ、カシも入るがクヌギ、コナラ、ミズナラの仲間のコナラ属の実はドングリの代表である。

童謡「どんぐりころころ」に歌われているドングリは、作詩者が宮城県出身なのでコナラかミズナラ? 大正時代の作品ですが歌詞を思い出してみてください。この歌詞のような童謡が今の世の中で生まれるだろうか。ちょっと悲しいですね。歌詞は2番までしかありません。「♪ないてはドジョウをこまらせた~♪」で終わっていますのであなたのイメージするドングリで続きを作ってみませんか。

ドングリはタンニンが多く、食用にするにはあく抜きの必要がありますがリスなどは土中に埋めることであく抜きをしていると言われています。それが発芽する貯食型種子散布となるのですから自然界の知恵は深いですね。そう言えばイベリコ豚もオーク(楢)の実を食べて素晴らしい味となっています。

コナラの森はカブトムシやクワガタ採りで胸をわくわくさせた森です。ドングリには幼い純な心が掻き立てられるようです。子供のころの遊びがよみがえってきます。コナラは木炭の原木として楢炭とよばれクヌギには劣りますがミズナラより勝ります。また、シイタケ原木としてクヌギよりホダ化しやすく完熟のホダが作りやすい優れものです。昔は20年ぐらいの周期で伐採して木炭やシイタケ原木に利用していましたが最近は年をとりすぎた林が多くなり、里山の問題点となっています。このように、人間の精神や暮らしになくてはならないコナラの森はまさしくハハソの名にふさわしいのではないでしょうか。
どんぐりa.jpg
ぼんぼりの柞の森はこのままではシラカシのような常緑広葉樹に遷移することになるでしょう。人間と自然が作り上げたコナラの森の知恵を残すためにも「ぼんぼり山」での活動は有意義なものと言えます。

コナラには思い入れが強く、長くなりましたが最後にコナラの特徴をあげておきます。 
材の特徴:環孔材で材質は堅い、比重はやや重い、堅く重い、重厚な感じ、木肌が美しく、辺材と心材の含水率の差が少ない、ミズナラより勁さの点で材質は劣る。
用途:建築材、器具材、家具材、滑車、柄材にはミズナラより良い、枕木。

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柞の森の樹木たち その1 
[オニグルミ] クルミ科クルミ属

樹幹

樹幹.jpg黒く、樹皮が縦に割れ突起がでている
2回の樹木調査をやって最後まで樹種名が判らずに「ナンジャロ」と呼んでいた樹木の名前が判りました。何しろ、樹高が25m近くあり梯子と高枝切挟を使っても葉が採取できず木登りもままならず、とうとう一番小さな木を伐採。葉を見てみると・・・
それは「オニグルミ」でした。

写真のように幹を見ると黒く縦割れしておまけに小さなコブが出来ています。最初はまるで見たことがないという印象でした。

このオニグルミは、柞の森の炭窯跡のヤブランがたくさん生えている周辺に10本ほどあります。以下オニグルミについて解説します。




奇数羽状複葉が特色.jpg奇数羽状複葉が特色
オニグルミは河岸または平地の湿潤な肥沃地に多い。この木が生えていたところはガレ場でそれほど湿り気はないのでまさかの思い込みがオニグルミを頭から除外していました。葉を見れば一目瞭然。写真のように互生で奇数羽状複葉。これが一枚の葉っぱであり、枝に互い違いについている。小葉は写真のように対生で4~10対あり葉の頂きに1枚あって奇数枚となっています。









葉の着生状況

葉の着生状況.jpg羽状複葉が互生で着いている
樹木調査で、葉を下から眺めた時、羽状複葉は確認できました。しかし、悲しいかな老眼で葉数までは確認できず、偶数羽状複葉のようであったことからムクロジではないかと一時は考えていました。また、サワグルミの線も捨てきれずいたのですが生えている条件がまるで違うことが判断を鈍らせてしまいました。
葉の拡大.jpg葉の拡大
オニグルミの葉は卵状か長楕円形で裏に多数の毛があります。
枝や葉はべとつくのが特徴です。


果実

昨年の果実(茶)と今年の果実.jpg昨年の果実(茶)の殻と今年の果実
オニグルミは実の殻がいかついのでこの名がついたといわれています。
樹木調査ではこの殻が発見できず、今回見つけることが出来ました。もっと早く見つけていれば「ナンジャロ」などと失礼な名前を付けることもなかったのに。

オニグルミが作る緑陰

オニグルミが作る緑陰.jpg枝葉の様子
なるほどよく見ると羽状複葉である。もっと細い葉と思ったが実際は大きい立派な葉でした。


オニグルミのうんちく

○果実を食用に
オニグルミは森林の中でトチノキやクリとともにリスなど動物の餌となる大切な森の恵みである。この実を利用して郷土料理に使う。生で食べてもおいしい。クルミの仲間にはこのほかサワグルミがあるがこれは粒が小さく食用には適さない。また、よく食品として売っているクルミはテウチグルミ(カシグルミ)でイラン原産であるが改良して日本でもよく植えられている。
実の栄養価が高く脂肪、タンパク質も豊富である。おいしいクルミ餅の材料や動物の餌としてどんどん増やしたい木である。そうすれば柞の森でリスが見られるかも。

○材の利用
材は強く、滑らかで狂いが少なく木目が美しいので用途は広くどんな使い方もできるのであろうが渓流沿いなどに生え、集団に生えないので出材量が少ないため、あまり使われていない。
良く知られているのは鉄砲の銃床である。明治以来の戦争、日清、日露戦争で大量に伐採され、その後造林もしたようで各地にオニグルミの造林地がある。
柞の森のオニグルミも炭窯の近くにまとまって10本ほどあるだけのところを見ると植栽されたものと思われる。それが一度伐採されて萌芽して現在の大きさになったのであろう。葉を採るために伐採した木の年輪は60年ほどであったから植えられて90年以上は経っている。大正から昭和の初期の戦火拡大機運のころの植栽ではないだろうか。

○オニグルミのアレロパシー(他感作用)
オニグルミの木の下では、他の植物が育たないと言われている。そう言えば柞の森のこの木の下は下草や他の灌木が少ない。炭焼跡のせいかと思ったがどうやらオニグルミの戦略らしい。アレロパシーとは生物が化学物質を出して他の生物に影響を及ぼす作用である。オニグルミの場合、クルミの果皮にユグロンという物質を持っているかららしい。